https://web.hypothes.is/blog/annotation-is-now-a-web-standard/
https://www.w3.org/blog/news/archives/6156
https://web.hypothes.is/help/what-are-unanchored-annotations/

活用法 Edit

外へ向けて:
トラックバック/ピンバックと一緒にアノテーションも生成するとか

内部に取り込み:
X内のページに付けられたアノテーションを、コメントと一緒に表示するとか

見せ方が制限されるので、言及先のページに重ねる以外の見せ方が無ければ、専用アプリでしか活用できない。
Xでよそのサイトに言及するときは Text Quote Selector で。コピペで言及箇所を示すのは自然。ツールが無くてもできる方法なので、一般的になるはず。

一般的なWebExtentionで、Xのコンテンツを他サイトの右端に表示できるようになったり。
Googleサイドウィキ

ウェブアノテーション入門:インターネットの新しい対話レイヤー Edit

もし、ウェブページに透明な付箋を貼ったり、まるで本や論文の余白に直接メモを書き込んだりできるとしたらどうでしょう?ウェブアノテーションは、まさにそれを実現する技術です。

驚くかもしれませんが、このアイデアは決して新しいものではありません。ウェブ初のグラフィカルブラウザ「Mosaic」に共同アノテーション機能が組み込まれてから、実に20年以上が経過しました。しかし、当時は共通の「言語」、つまり標準規格がなかったために、この革新的な機能はウェブの片隅に追いやられていました。今、その長い間待ち望まれていた標準がようやく確立され、ウェブとの関わり方を根本的に変える準備が整ったのです。

ウェブアノテーションとは、元のウェブページを一切変更することなく、その上に情報、コメント、ハイライトといった「レイヤー」を追加する仕組みです。このレイヤー上の情報は、あなただけの個人的なメモとして使うことも、特定の友人やクラスメートと共有することも、あるいは全世界に向けて公開することも可能です。これは、ウェブの新しい対話の形なのです。

1. なぜ新しい仕組みが必要なのか?:サイロ化したコメント欄からの脱却

ニュース記事やブログコメント欄は、私たちの多くが日常的に利用する機能です。しかし、これらのコメントシステムは、その情報が特定のウェブサイト内に閉じてしまう「サイロ化」という大きな問題を抱えています。あるサイトに残したメモや議論を、別のサイトやツールで再利用したり、横断的に共有したりすることはできません。

ウェブアノテーションは、この問題を解決するために生まれました。オープンな標準規格に基づいているため、特定の企業やサービスに縛られることなく、ウェブ上のあらゆる場所で機能します。

従来のコメントシステム 標準化されたウェブアノテーション
特徴: サイト運営者が提供する独自の機能。 特徴: オープンな標準規格に基づき、どのウェブページにも適用可能。
課題: <ul><li>情報は特定のサイトにロックされ、共有や再利用が困難。</li><li>ユーザーツールやサービスを自由に選べない。</li></ul> 利点: <ul><li>異なるツールやサービス間でアノテーションを共有・移動できる。</li><li>ユーザーが自身のデータとツールに対して主導権を持つ。</li></ul>

2. ウェブアノテーションの仕組み:舞台裏を覗いてみよう

ウェブアノテーションは、元の文書を変更するのではなく、その上に情報を重ねて表示する「オーバーレイ」技術です。アノテーション(メモやハイライト)は、元のウェブページとは完全に分離してアノテーションサービスのサーバーに保存されます。そして、あなたがそのページを訪れるたびに、保存されたアノテーションがリアルタイムで元のコンテンツと再結合され、正確な位置に表示されるのです。

すべてのアノテーションは、基本的に2つの要素で構成されています。

  • ターゲット (Target): アノテーションの対象となる部分です。ウェブページ全体、特定の段落、一文、あるいは画像や動画の一部など、あらゆるものがターゲットになり得ます。
  • ボディ (Body): アノテーションの内容そのものです。これはコメントのテキストであったり、タグ、画像へのリンク、動画、さらには数式など、様々な形式を取ることができます。

アノテーションが直面する課題

この仕組みには一つ課題があります。もし、元のウェブページのコンテンツが変更されたらどうなるでしょうか?例えば、あなたがハイライトした一文が、サイト運営者によって削除されたり書き換えられたりした場合です。

このような場合、アノテーションは元の位置情報を見失い、「アンカーが外れた(unanchored)」状態になります。多くのツールでは、このようなアノテーションはページの片隅にまとめられ、元々どのテキストに対応していたかが取り消し線付きで表示されます。

アンカーが外れる原因はもう一つあります。あるアノテーションへの返信もまた、独立したアノテーションです。もし返信先の親アノテーションが削除されたり非表示になったりすると、その返信は紐づく先を失い、アンカーが外れた状態になります。これは、アノテーションが元のコンテンツや他のアノテーションから独立しつつも、互いに関係し合って存在していることの明確な証拠と言えるでしょう。

3. 共通言語の力:なぜ「標準化」が重要なのか?

2017年2月23日、ウェブ技術の標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)がウェブアノテーションを正式な標準として勧告したことは、この技術にとって「決定的な一歩」となりました。

これにより、特定の企業やサービスに依存しない、オープンで相互運用可能なエコシステムの基礎が築かれました。つまり、A社のツールで作ったアノテーションをB社のサービスで見たり、自分のデータを自由に移動させたりすることが可能になったのです。

W3Cウェブアノテーション標準は、主に以下の3つの仕様から構成されています。

1. データモデル (Data Model): アノテーションの「文法」にあたります。異なるプラットフォーム間でアノテーションを共有・再利用できるよう、アノテーションがどのような構造(誰が、何を、どこに)を持つべきかを定義する、設計図のようなものです。
2. ボキャブラリー (Vocabulary): アノテーションで使われる「単語」集です。bodyやtargetといった基本的な用語が何を意味するのかを定義し、誰もが同じ意味で言葉を使えるようにします。
3. プロトコル (Protocol): アノテーションをやり取りするための「会話のルール」です。異なるシステム(クライアントとサーバー)間でアノテーションを作成、管理、取得する方法を定めます。

これらの共通ルールがあるからこそ、私たちは特定のプラットフォームに縛られることなく、自由な対話のレイヤーをウェブ全体に広げることができるのです。

4. ウェブアノテーションで何ができるのか?:具体的な活用シーン

ウェブアノテーションは、単なるメモ機能にとどまらず、学習、研究、共同作業の方法を大きく変える可能性を秘めています。

個人の学習と研究 Edit

 * ウェブ上のあらゆる文書に永続的な個人メモを作成し、思考を整理する。
 * 複数の情報源から集めた引用やハイライトを一元的に管理検索し、自分だけの知識ベースを構築する。

教育現場での活用 Edit

 * オンライン教材に学生が直接質問を書き込み、教員や他の学生が文脈の中で対話する。
 * クラス全体で文献を共同で読み解き、議論を深めることで協調学習を促進する。

共同作業と情報共有 Edit

 * デザイン案や報告書などのウェブページをチームでレビューし、フィードバックを正確な位置に残す。
 * ニュース記事のファクトチェックをコミュニティで行い、その結果をアノテーションとして共有することで、情報の信頼性を高める。

5. 結論:ウェブの未来を拓く新しい対話の形

ウェブアノテーションが目指す最終的なビジョンは、この機能がウェブブラウザに標準で組み込まれ、検索やブックマークのように誰もが当たり前に使える「ネイティブ機能」となることです。

これが実現すれば、私たちはウェブ上のあらゆる知識の上に、オープンで分散化された「対話のレイヤー」を築くことができます。オンラインでの会話は、もはやページの最下部に追いやられたコメント欄に縛られることはありません。記事の段落、画像の特定部分、動画の一瞬一瞬に対して、文脈に沿った豊かで深い議論が生まれるでしょう。ウェブアノテーションは、静的な情報の消費者であった私たちを、ウェブという広大な知識空間における能動的な対話の参加者へと変え、私たちの対話そのものをコンテンツと同等に重要な、ウェブの真の「第一級市民(first-class citizens)」へと押し上げる、新しい時代の幕開けを告げているのです。